音楽におけるライム:文献レビュー
これから音楽におけるライムのまとめ本を執筆するにあたって、参照するリストを挙げます。また、それらの本がどのような価値を持つか、どういう役割を持っているかについてもレビューします。
ライムの文献リスト
著者名のアルファベット順に並べています。
- Bradley, Adam. Book of rhymes: The poetics of hip hop. Basic Books, 2009.(未邦訳)
- Davis, Sheila. The craft of lyric writing. Writer's Digest Books, 1985.(邦訳あり。シーラ・デイヴィス『作詞術』, 全音楽譜出版社, 2007)
- Edwards, Paul. How to Rap: The Art and Science of the Hip-Hop MC. Chicago Review Press, 2009.(邦訳あり。ポール・エドワーズ『HOW TO RAP 104人のラッパーが教えるラップの真髄』, P-Vine Books, 2011)
- Edwards, Paul. How to Rap 2: Advanced Flow & Delivery Techniques. Chicago Review Press, 2013.(未邦訳)
- Pattison, Pat. Songwriting: essential guide to rhyming: a step-by-step guide to better rhyming and lyrics. Berklee Press, 2014.(未邦訳)
- Pattison, Pat. Writing better lyrics. Writer's Digest Books, 2009.(未邦訳)
- Wood, Clement, ed. The Complete Rhyming Dictionary Revised Including the Poet's Craft Book. Dell Publishing, 1992.(未邦訳)
ライムの文献レビュー
重要かつ網羅的と思われる順序で簡単な文献レビューを書きます。
Writing Better Lyrics は、ポピュラー・ミュージックの作詞術にかんする網羅的な本です。著者はバークリー音楽大学の教授であり、その実用的・合理的なメソッドに影響を受けた整然とした形式的な分析が魅力です。ライムに関してはファミリー・ライム、アディティヴ・ライム及びサブトラクティヴ・ライムという概念の導入により、パーフェクト・ライムとそうでないライムをより細やかに分類できる点が有用です。Amazon.com の Songwriting カテゴリでは1位のベストセラーです。
Songwriting: essential guide to rhyming はライムに特化した教則本で比較的読みやすくオススメです。初心者向けのギターの教則本などを想像していただければ良いと思いますが、豊富な例とエクササイズによって、これ1冊でライムを実践的に身につけることができます。巻末に索引があります。同じバークリープレス教則本シリーズで Songwriting: Essential Guide to Lyric Form and Structure: Tools and Techniques for Writing Better Lyrics も著しており、こちらは洋楽のソングフォームを学ぶのにオススメです。
How to Rap はアメリカの有名ヒップホップMCへのインタビュー集で、すでに邦訳も出ています。現場のラッパーにテクニカルな質問を行い、その回答を包括的・体系的にまとめています。ライムに関してはマルチ・シラブル・ライム、発音のベンディング、ライムのリンキングについて紹介した記述が重要です。また、4拍のビートとシラブルを対応させた記譜法「フロウ・ダイアグラム」の紹介も重要です。巻末に索引があります。(邦訳版の索引は固有名のみ)。
How to Rap 2 は上述の本の応用編です。ラップにかんするより実践的なテクニックやトレーニングを扱っています。ライムに関しては、ランズ・オブ・ライムという観点の紹介、それからポエトリー(文学の詩)とラップにおける用語法の違いをまとめた箇所も必読です。音楽では「詩行」が成立しないがゆえに、エンド・ライム、インターナル・ライムというタームも本来の意味では成立しないと指摘しています。巻末に索引があります。
Book of Rhymes はヒップホップのライムにおける詩的技法を論じた本です。上述の Songwriting: essential guide to rhyming はテクニックの再現に必要な条件とその効果が明確に定義されます。つまり、質的には粗さを感じる読者もいるかもしれません。それに対して、本書は各アーティストがどのような個性的なテクニックを用いてどのような効果を引き出しているのかを丁寧に論じていきます。そのため、読み物として非常に面白いと思います。巻末に索引があります。 また、 How to Rap の多視点による、ともすれば気が散りやすい記述に対して、一人の著者の視点によるじっくりと書かれた分析が魅力でしょう。
The Complete Rhyming of Dictionary は歴史のあるライミング・ディクショナリーです。1936年に出版され1992年に改訂されました。また、巻頭の100ページ強が作詩にかんする知識を一通り網羅しており、ハンドブックとしても便利です。
The craft of lyric writing は未読ですが、ソングライティングのクラシックとなっているようです。