フシギにステキな素早いヤバさ

フシギにステキな素早いヤバさを追いかけて。俺は行くだろう。

放課後徒歩タイム

歌を歌う海と町

僕は日本の南西、沖縄本島で生まれ育ちました。
そこは、みなさんのご想像されるとおりの田舎で、ひとりで好きな歌を歌いながら、誰もいないサトウキビ畑と誰もいない海岸を歩いて帰る短い半ズボンの小学生。それが僕でした。
誰にも聞かれない歌は自分の耳を楽しませました。僕は歌うのが好きだったのです。

放課後になると、選択肢が出現します。

  1. 野球少年になる
  2. 本を読む
  3. 家でテレビゲームをする
  4. ゲームセンターに行く

その中から、僕は「本を読む」というルートをよく選びとりました。
小学校の図書館で毎日3冊ずつ本を借りて、それらを読みながら農道を抜けたり海岸を一直線に歩いて帰る日々を過ごしていました。
本のページに反射する白い日差しが両目を焼いて、頭がくらくらくる感覚が好きでした。


僕は小学生だったのです。みなさんと同じような。
だから、好きな本を見つけると、返しては借りてを繰りかえし、何度となく読みかえし、「がんばりノート」にイラストや説明文をかきうつしたりするやりかたで、その本の世界にどっぷりつかりました。

音楽が好きだ!

僕は小学5年生のころぐらいに、図書館の本で見つけたポプラ社の「音楽が好きだ!」というシリーズを好きになりました。
最初はその装丁に引かれました。かたくて大判でポップな色使いの表紙に。
プロフェッショナルで、かつ親しみやすい人柄の著者たちが語る音楽の世界*1。それらに、僕はすぐに引きこまれました。ロック楽器の知識やライブの仕方、発声の仕方、世界の民族音楽についての知識などが大型版の紙面で一冊一冊、ていねいに構成されていて、あなたに語りかけます。1冊は短い時間で読みきれるので、飽きもせずに1巻から6巻までをローテーションでくりかえし図書館から借りて読んでいました。
この本たちが声を出して口々と僕に
「歌をつくろう!」
「演奏しよう! バンドって面白いよ」
「コンピューターで音楽をつくろう!」
「まどか、世界は音楽でいっぱいだよ!」
「僕と契約して、ミュージシャンになってよ!」
と繰りかえし語りかけるので、僕はすっかり洗脳されてしまったのです。
現在でたとえるなら、けいおん!みたいに音楽の世界へとカジュアルに引きこむ力をその本たちは持っていました。僕があまりに夢中になったので、母がその中から1冊特に気に入っている巻を買ってくれたのでした。



「でも、なんだかすっごく楽しそうでした! わたし、この部に入部します!」*2

けいおん!平沢唯ちゃんは、「軽い気持ちで入った軽音部だけど……、みんな優しいし、お菓子おいしいし……私にもできそうだし、なんだか楽しそうだから!」という理由でバンドをやろうと決意しています。小学生の僕もまた、彼女のような気持ちで、サエキけんぞうさんの作詞作曲する姿に「楽しそう!」と心を動かされたのです。
それが「音楽が好きだ!」シリーズ第1巻『歌をつくろう!』。
サエキけんぞうさんという超リアルなミュージシャンによって作詞作曲のしかたがていねいに説明されています。
たとえば、「きみが初めて歌詞を作るにはどうしたらいいか」という問題に対し、サエキけんぞうさんは

  • 「なんかこう涙が出てくる歌詞がいい」
  • 「サッカー部の話はどうだろう」
  • 「サッカー部のマネージャーに失恋するのはどうか」
  • 「サッカーの試合に負けて涙するのはどうか」

などと、どんどんと具体的にアイディアを出し、まるで漫画家につく編集さんのように親身になって作詞の考え方をみせてくれるのです。
それって楽しいじゃない!?

「ただ、なりたいってだけじゃ、駄目なのかな……」*3

魔法少女にはなれなかったけど、サエキけんぞうさんと契約した僕は、今でいうと、ボカロPになるために初音ミクを買ってもらうようなノリで、両親にエレキギターを買ってもらい、作詞・作曲少年になりました。
なぜなら『歌をつくろう!』に「作曲するには、キーボードかギターがあるといいです」と書かれていたからです。

この頃、友人の家でビートルズのCDを聞いて好きになり、頭の中をイエローサブマリンの歌が占めるようになりました。♪インザターウン ホエホーヘホー♪ といった感じの歌が。
CDを貸してもらい、カセットテープに録音し、カセットのスリーブに曲名を書きこみ、一曲の再生が終わると巻き戻して、また再生し、それを繰りかえして、聞きこみました。歌を覚えることで、頭の中にポータブルなカラオケセットを作ろうとしたのです。
だって、そしたら小学校の授業中でも脳内再生で聴けるじゃない!

思いだせば、今の僕と同じようにこの頃の僕は歌詞を覚えたり歌詞の意味を知るということに執着があったのです。

しかし帰り道に歌おうとしても、英語の読み書きがまだわからなかった僕には難しく、覚えることがなかなかできませんでした。
歌詞なきカラオケ、それは、純朴な田舎の小学生にはいたたまれません。歌いたいのは家の中にいるときではなく、外で風景を見ながら歩くときなのだから。
だから、中学にあがる直前の春休みに僕は母親に英和辞書を買ってもらい、ビートルズの歌詞をカタカナでノートにうつしたり、直訳をしたりしました。
CDの歌詞カードから歌詞を書き写した紙を持ち歩き、暇なときにそれを見、覚えたはしから諳んじて、夕方、うつむいて、学校の帰り道を歩きながら歌を口ずさんで帰りました。

そして中学生になるとビジュアル系バンドやJ-POPを聴きはじめるようになり、バンドをしたがるようになりました。

*1:その魅力についてはこのブログ記事が楽しく説明しています。http://gyogyo.seesaa.net/article/122887770.html

*2:かきふらい芳文社/桜高軽音部けいおん!』より

*3:Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS魔法少女まどか☆マギカ』より