鈴木マ球『ラブ・イズ・ザ・デビル』の感想
以前から活動を追いかけていた鈴木マ球さんの新刊を手に入れました。
絵と話の作り方の両方に大きな変化を感じました。
新刊「ラブ・イズ・ザ・デビル」を読んだ感想を鈴木さんに伝えたいので、ここに書き残しておきます。
今作では目の描き方に複雑なニュアンスが生まれています。(まつげ、黒目など)
常に泣いているようにも見えるニュアンスですが、繊細な心の変化を描いていくこの漫画の物語と表現が対応しています。
(『ラブ・イズ・ザ・デビル』より引用)
また、線も細く繊細で、なおかつ明瞭で記号的な描写が選ばれています。
特に作品冒頭の見返し、物語の導入であり、物語のキーにもなるページが注目されます。
明晰に形状が描きわけられた描線が、鈴木さんの絵の変化をはっきりと物語っています。繊細ながら、非常に記号性が高い絵です。
(同上、赤線はぼくが説明のために引いたもの)
遅くとも前作の『バレエ・メカニック』(2021年9月4日発行、同人誌)からは絵に変化が生じていたようです。
(『バレエ・メカニック』より引用)
しかし、かつての鈴木さんの絵のスタイルは、線が太く、目が黒い、もしくは、目の中に記号が入って「かわいさ」などを表現する、など骨太の記号性を利用するものでした。
描線も、整理されているというより、むしろ、粗さ、ブレを許容するものであり、いわゆる「ガロ系」の私小説的な漫画の雰囲気を湛えるものでした。(それは味のあるいいものだったと思います)
また、物語の内容も、鈴木さん本人を描いた私小説として読める、モテなくてさえないサブカル男子がよく描かれていたものと思います。
(コミックリュウ『独身サラリーマン鈴木の生態』第1話より引用)
今作『ラブ・イズ・ザ・デビル』での鈴木マ球さんの変化は、作家本人が意図的に選択したものであると思われます。
私が読者としてそこに見た変化は、「線描の繊細さ、線のブレを排除した高度に記号化された形状、目の描き方にあらわれる感情の複雑なニュアンス」です。
それは、私小説をはなれ、「フィクションとしての物語を立ち上げる」鈴木さんの決意であるように思います。
書誌情報
- 同人誌
- 2022年11月27日発行
- コミティア142にて頒布
- サークル名 電撃ブリーフ